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名古屋地方裁判所 昭和51年(行ウ)10号 判決

原告

浅野郁郎

被告

名古屋市人事委員会

右代表者

山本正男

右訴訟代理人

冨島照男

外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因1、2の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二〈証拠〉によれば、被告が昭和四八年一〇月二四日にした本件判定の理由の骨子はつぎのとおりであつたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

(1)  教職員用便所については、円上中の教職員用便所は、本件措置要求の後男子用と女子用に区別され、既に措置済みである。また便房数は、現有職員数にてらし法定要件をみたしている。

(2)  休憩の設備の現状は、職員が有効に利用することができる設備として設置されたものはないが、事務所規則一九条は事業者に課した努力義務の規定であつて、右設備が設置されていないことをもつて、ただちに法に違反するということはできない。

(3)  休養室等の現状は、職員のために措置された特別な休養室等はなく、宿直室を利用することができるにすぎないが、円上中の職員数からすれば事務所規則二一条に違反するものでない。

(4)  更衣室の現状は、職員が衣服を着替えて保管しておくための個人ロツカーが職員室の片隅に設置され、更衣は右場所または宿直室等でなされており、これは十分な更衣設備とは思料しないが、現段階としてはやむをえない。

(5)  冷房の設備の現状は本市の他の諸施設にも中央管理方式による空気調和設備または機械換気設備が設置されていないところもあり、一概に学校職場にかぎり設置されていないということはできず、また、学校の管理諸施設に冷房設備が設置されていないからといつてただちに事務所規則に違反するものではない。

(6)  職員室の床面積の現状は、職員室にロツカー・印刷機等が併置されており職員室の使用が制約されているが、職員一人当りの気積は事務所規則に規定する基準を上回つており、現段階としてはやむをえない。

三事務所規則は便所につき、「事業者は便所を男子用と女子用に区別し(一七条一項一号)、男子用大便所の便房の数は男子労働者六〇人以内ごとに一個以上とし(同二号)、男子用小便所の箇所数は男子労働者三〇人以内ごとに一個以上とし(同三号)、女子用便所の便房の数は女子労働者二〇人以内ごとに一個以上(同四号)とすること」と規定し、休憩の設備については、「事業者は、労働者が有効に利用することができる休憩の設備を設けるように努めなければならない。」(同規則一九条)と定め、休養室等については、「事業者は、常時五〇人以上又は常時女子三〇人以上の労働者を使用するときは、労働者が臥床することのできる休養室又は休養所を男女別に区別して設けなければならない。」(同二一条)旨定め、更衣室については、「事業者は、被服を汚染し、若しくは湿潤し、又は汚染し、若しくは湿潤するおそれのある労働者のために、更衣設備又は被服の乾燥設備を設けなければならない。」(同一八条二項)と定め、冷房の設備については、「事業者は、室を冷房する場合は当該室の気温を外気温より著しく低くしてはならない(同四条二項本文)。中央管理方式の空気調和設備を設けている場合は、室の気温が一七度以上二八度以下及び相対湿度が四〇パーセント以上七〇パーセント以下になるよう努めなければならない。」(同五条三項)と規定しており、事務室の床面積については、「事業者は、労働者を常時就業させる室の気積を、設備の占める容積及び床面から四メートルをこえる高さにある空間を除き、労働者一人について、一〇立方メートル以上としなければならない。」(同二条)と定めている。

四そこで円上中の設備の状況について検するに、〈証拠〉を総合すると、次の事実が認められ、他にこれを覆えすに足る証拠はない。

1  円上中における本件判定当時(昭和四八年一〇月二四日)の職員数は、教員が男子一九名、女子七名、事務員が一名、用務員が男女各一名の合計二九名であつたこと。

2  同校の各室の位置及び配置は別紙図面(一)のとおりであり、職員便所、職員室、宿直室等は鉄筋コンクリート造り三階建の北校舎一階部分にあり、昭和四八年夏休み前までの職員便所の状況は、廊下に面した北側に入口が一か所あつて、手前(北)は洗面所となつており、その奥(南)の西側に小便器が五個、その東側に便房が三個あり(別紙図面(二))、右便房は男女共用であつたところ、同年七月から八月にかけての夏休み中、右便所を東西に分ける中央線付近に南端から北端(洗面所との境)までアルミサツシ及び合成樹脂材の間仕切りを設け、従前の小便器部分と北端の便房一個を男子用便所とし、南側便房二個を女子用便所とし、従前の小便器部分の入口及び女子用便所の入口に各々右と同材質の扉を設置した(別紙図面(三))こと。

右改造は、当時の同校校長訴外石黒次郎が以前から考えていたもので、同四八年五月中旬ころ業者にその見積りを依頼して予算措置を講ずる準備をしていたところ、同月三一日、新任、転入職員と校長との懇談会の席上、原告から職員便所の改善方の申入れがあつたこともあり、右改善計画を積極的に推進し、名古屋市教育委員会に交渉し、金二一万円の特別予算をえてこれを実行したものであること。

3  休憩の設備については、同校には、これを目的とした独立の設備・部屋等はなく、ただ職員室内の一隅に丸テーブルを一個置き、そこで新聞を読んだり、雑談できるような形にしてあつたものの、これのみでは休憩の用をなさなかつた。その後、昭和四九年三月ころ、職員室の北東角部分に応接セツトを置き、その西側及び南側を戸棚、書棚によつて囲い、テレビを備えた部分が設けられるに至つた(別紙図面(四))こと。

4  休養室等については、同校にはいまだ職員のための専用の休養室等はなく、宿直室を利用していること。

5  更衣設備については、本件判定時には専用の更衣室はなく、男子職員は、職員室の東側に各人用に備えられたロツカーが二列に並べられ、ここで更衣しており、女子職員は、当時すでに当直制度が廃止されていたため、宿直室を利用して更衣していたが、その後、昭和四九年三月末ころ、職員便所の西隣りにあつた視聴覚機械室内の機器を別室に移転し、そこへ従前職員室に置いていた男子職員のロツカーを入れたうえ、木製で高さ約1.80メートルの更衣ロツカーを二個設置し、これを男子更衣室とし(別紙図面(五))、宿直室に女子職員のロツカーを移転し、ここを女子更衣室とし(別紙図面(六))で利用できるよう改善されたこと。

6  冷房の設備はないが、職員室の東側と西側窓枠内上部に換気扇が設置され、原告が赴任した昭和四八年四月以降原告の要望により扇風機が用意されたこと。

7  職員室は、その床面積が一二〇平方メートルであり、床面から天井下面までの高さが3.69メートルあり、本件判定時、室内に印刷機、放送室、職員用ロツカー等が併設され、その配置状況は別紙図面(七)のとおりであつたが、その後休憩室が設置され、また前記5のとおりロツカーの移転が行われたため、現況は別紙図面(四)のとおりであること。

五1  右事実からすれば、職員便所は当初男女共用であつたが、本件判定時には、事務所規則一七条一項一号に所謂男子用と女子用に区別されていたものと認められ、また、便房の数等は同校の職員数に照らし同規則の要件をみたしているので、本件判定に法令の解釈を誤り裁量権を逸脱した違法があるとはいえない。

2  休憩の設備については、本件判定時にこれが設置されていたとは認め難い。しかし事務所規則一九条は、事務作業に従事する労働者が休憩時間中有効に利用することができる休憩の設備を設置するよう努めるべきことを定めた訓示規定であると解される。してみると当時同校に休憩の設備が設けられていなかつたからといつて、これをもつて同規則に違反しているといえないことは明らかであるし、努力の痕跡が存在することが同条違反を免れるための前提であるともいい難いから、本件判定に違法はない。なお、同校ではその後職員室内に不十分ながら休憩の設備を設け、同規則の要請に応えている。

3  休養室等については、同校の職員数は同規則二一条の所定人員以下の人数であり、また宿直室を利用することもでき、従つて同規則に違反しないこと明らかであるから、本件判定に裁量権を逸脱した違法があるとはいえない。

4  更衣設備については、本件判定時十分なものとはいえないが更衣設備は設けられており、被告において現段階ではこの程度の設備であつてもやむをえないと判断したことはその裁量権の範囲に属すると考えられるので、違法はないというべきである。なお、その後、男女別に独立に更衣室が設けられたことは前認定のとおりである。

5  冷房の設備については、同規則四条二項、五条三項は事業者に冷房設備の設置を義務づけたものとはいえず、従つて同校の現状をもつて右規則に違反するといえないことは明らかであるから、本件判定に違法はない。

6  職員室の床面積については、前示認定事実からすれば、同校の職員一人当りの気積は一〇立方メートルを上回つており、同規則二条の規定に違反していないというべきであるから、本件判定に裁量権を逸脱した違法はない。《以下、省略》

(可知鴻平 松原直幹 高野芳久)

別紙図面(一)〜(七) 《省略》

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